CITE: 若者のための質の高い技術教育

工業技術と起業推進のための養成センター(略称CITE)がフィリピンのセブ市に創立されたのは1990年の2月。設立目的は恵まれていない若者たちとその家族、そして地域のコミュニティをはじめビサヤ諸島、ミンダナオ諸島の産業団体へ、専門技能や起業家精神、価値観の養成および社会サービスを提供することです。

  夜が明けるとすぐ16歳のドドンは家事をするため起床することが日課となっています。100メートル離れた水汲み場から毎日家で使う水を運ぶことです。家では5人の弟、妹が学校へ行く支度をしています。2歳になる弟は朝食の用意に取り掛かっているお母さんにまとわりついています。

テーブルには酢漬けされた魚の干物が少しと残り物のご飯が並べてありますが、かろうじて3人分程度です。

ドドンはがっかりしてそれをテーブルに陣取る弟や妹たちに譲るのでした。朝食を抜くのは初めてのことではありません。特に経済不況のあおりを受けて先月父親が失職してからは家計は一層深刻になってしまいました。病気がちなお母さんは家計を助けるために近所から洗濯物を預かり生活費の足しにしています。ドドンは学校に行く際には両親に「行ってきます」と言いながらすばやく「神さま、今日一日乗り切る力を与えて下さいますように」とお祈りするのでした。

ドドン家のような状況はセブではごく普通です。島民の多くは手の施しようがない社会的慢性病だと割り切り、それを受入れざるを得ないことを永年にわたって学んできているのです。多くの人はなかばあきらめていたのです。

しかし、CITEは違いました。オプスデイの初めての司教であるアルバロ・デル・ポルティーリョ神父の霊感により1990年に工業技術と起業推進のための養成センター(CITE)が創立された時、この施設を支援する人々は貧困への戦いは文字通りに、そして比喩的にも苦しい上り坂となることを知ったのです。

セブシテイの郊外の高台にあるCITEは、一つの解決策を見つけました。それは経済的に恵まれない若者たちを対象とした高度な技能教育への取組みでした。ドドンのような若い人たちが役に立つ技能を身につければ仕事も見つかることだろうし、事業を起こすことも出来るだろうし、暮らしもきっと良くなることでしょう。

CITEの3年間続く最重要教科課程は「産業技術養成コース」(ITP)と呼ばれている。男子の高卒者を対象にトップレベルの専門技術を取得させるもので機械工学、産業電子工学、電気機械技術あるいは情報工学などの広い分野をカバーするものである。

ITPのカリキュラムは産業界からの要請、すなわち熟練した技能者が欲しいという要請に対してまさに相応しいものとなっている。

ITPでは学生は最初の1年半は学校で理論を、そして自分の専門分野に関する研究所で訓練を受ける。

後半の1年半はさまざまな企業での体験学習が割り当てられ実業に専念することになり、必要な食費や交通費を補助するため相応の手当てが支給される。

学校内での生活には、上記のITP制度を凌ぐほどの支援システムが整備され学生たちは恩恵に浴している。と言うのも技術志向のカリキュラムとは別にCITEは人格形成のための生活指導活動にも力を注いでいるからである。学生一人ひとりに個人的なこと、仕事上のことあるいは学問上のことでも自由に打ち明けてアドバイスを求めることのできる「家庭教師」がついている。

仕事を通じて聖化するという聖ホセマリア・エスクリーバーの教えにしたがいCITEでは精神生活面でも手を抜いてはいません。黙想会、公教要理の受講、ミサ、ゆるしの秘蹟、霊的指導もいつでも受けられるようになっています。活発な学生クラブやスポーツ活動、奉仕活動などにより心身ともに強い社会人に磨かれてゆくのです。

CITEをさらに特長づけていることは、「奨学金」制度の存在です。同窓会や市民団体あるいは政府組織や私企業そして個人の方々からの寄付により学生たちは全額ないしは一部の奨学金の支給を受ける仕組みです。

この制度が次代の学生のためにも継続できるように、学生は「いつか一人の学生を支援する」という緩やかな条件で奨学金の返済をしないといけません。

企業での実習期間中は、学生たちは指導担当者の監督の下でこれまで身につけた技能を実際の現場で試行してみることになります。これらの研修計画は、彼等の潜在力がほぼ完全に引き出されるように具体的に作成されています。クラスの担任あるいは家庭教師たちも工場での訓練に関する心配事があれば直ちに対処できるよう定期的に工場訪問を行っています。

CITEのユニークな考え方は、学生たちの教育にとって彼等の家族および学校の先生方の役割を重要視していることでしょう。たとえば親たちが毎月積極的にセミナーや黙想会に参加することは親子間の健全な関係を作り上げるために役立ちます。父兄懇談会では先生方と子どもたちの学業成果について話し合いをするほか父兄同士で意見交換もできます。他方、先生方にも学生たちが責任感ある大人になり、正しい市民になるよう人格形成を助けるために定期的に専門的な啓発活動やプログラムを受けています。

CITEでの3年の訓練終了後全生徒が仕事に就くことは間違いありません。CITEの卒業生は各人の能力の高さと職業価値観の点で知られており、国際レベルと同等の入社基準を持つ企業にとっても欲しい人材となっています。

それぞれの分野で強いだけでなくさらに高い目標を目指そうとします。より高い教育機関へ進む者もいれば、自分の技術を生かしベンチャー企業を興す者もいます。ただ共通して云えることは、みんな暮らし向きが以前より豊かになったことです。

貧困から立ち上がろうとする多くの学生たちを見守るCITEの理念は、CITEでの生活を始めたばかりのドドン少年のような若くてやる気のある多くの人たちにとって希望の灯かりとなりました。

機会のない者に機会を与え、希望を失った人に希望を与えるという義務に忠実であろうとする、この学校を支援する人々を絶えず励ましています。